#9 ちゃんとしなきゃ、って思い続けてきた人へ。

カウンターにコーヒーを置いて、
湯気がふわっと立ちのぼるのを眺めながら、
今日はこんなことを考えている。

仕事をするってことは、お金をもらうってことで。
お金をもらう以上、責任があって、
その対価をお客さんが払っているんだから、
それに見合った商品やサービスを出さなきゃいけない。

だから、ちゃんとやらなきゃいけない。
できれば、完璧でありたい。

……うん、その理屈は、よく分かる。
正論だし、大人として否定しづらい考え方だ。

でもね。
その「ちゃんとしなきゃ」が、
知らないうちに呼吸を浅くしていないかな、と思うことがある。

少しの抜けが許されない気がしたり、
ミスを想像するだけで胸がきゅっとしたり、
毎日がどこか灰色に見えてきたり。

それって、
真面目にやってきた人ほど、起きやすいことなんじゃないだろうか。

確かに、
完璧な商品やサービスは、受け取ると気持ちがいい。

でも人は、それにすぐ慣れてしまう。
慣れてしまうと、今度はそれを「当たり前」にして、
さらにその上を求めるようになる。

完璧を目指すこと自体は、悪いことじゃない。
ただ、完璧だけを基準にした世界って、
ずっと息を詰めていないと立っていられない場所にもなる。

そんなに完璧じゃなくても、いい場面ってあるんじゃないかな。
少し欠けていたって、
それを含めてお互いが納得できるなら、
その方が長く続く関係も、仕事も、ある気がする。

これは、
手を抜こうという話でも、
誠実さを手放そうという話でもない。

むしろ逆で、
ちゃんとやろうとしてきた人が、
自分を追い込みすぎないための話
なんだと思う。

それでも多くの人は、真面目だ。

誰が見ていなくても、
「ここ、ちゃんとしとこう」と思ってしまう。
見逃してもいいかもしれないところで、
心に引っかかって、結局やってしまう。

そういうところがある人は、
もう十分、ちゃんとやってきた人だ。

誰が評価しなくても、
あなた自身が、自分の仕事を見ている。
それだけで、もう合格なんじゃないかな。

だから、今日はここで少し立ち止まってみてほしい。

今すぐ何かを変えなくてもいい。
明日から急に楽にならなくてもいい。

ただ、この一杯分だけ。
今日は完璧じゃなくていい。

深呼吸して、
肩の力をほんの少し抜いて、
「まぁ、今日はこれでいいか」と思えたら、それでいい。

「ちゃんとしなきゃいけない毎日」に、
行き詰まりを感じている人がいたら、
この店にそっと置いてある言葉として、
これを残しておきたい。

答えは出さなくていい。
今日はただ、息ができれば、それでいい。

コーヒーが冷めないうちに、
もうひと呼吸していきなよ。